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室温超電導への競争——日本発の銅酸化物が変えつつあるエネルギーの未来

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室温超電導への競争——日本発の銅酸化物が変えつつあるエネルギーの未来
室温超電導への競争——日本発の銅酸化物が変えつつあるエネルギーの未来

大きな発想——抵抗ゼロの世界

超電導とは、ある温度より下で物質の電気抵抗が完全にゼロになり、磁場を内部から押し出す現象です。電流がいったん流れ始めると、理論上は減衰せずに流れ続けます。1911年、オランダのカマリン・オンネスが水銀を液体ヘリウムで冷やして発見しました。

問題は温度でした。初期の超電導はおおむね絶対零度(マイナス273度)に近い極低温でしか起きず、巨大な冷却装置が必要でした。これでは送電網や日常の機器に使うのは現実的ではありません。

転機は1986年です。ベドノルツとミュラーがランタン系の銅酸化物(カプレート)で約マイナス243度の超電導を報告し、翌年にはイットリウム・バリウム・銅酸化物(YBCO)が約マイナス181度、つまり安価な液体窒素(マイナス196度)で冷やせる領域に達しました。「高温超電導」という言葉はこの相対的な意味で使われます。

科学と歴史——日本の深い関与

銅酸化物の物理は、銅と酸素が作る平らな層が舞台になります。通常の金属では電子は互いに反発しますが、超電導状態では電子が二つずつ「クーパー対」を組み、抵抗なく動きます。低温超電導では格子振動が対を媒介すると説明されますが、銅酸化物の対形成の正確な機構は、約四十年たった今も完全には解明されていません。

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日本の研究は要所で寄与してきました。1988年には前田弘らがビスマス系の銅酸化物超電導体を発見し、より高い温度での超電導の道を開きました。さらに2008年、東京工業大学の細野秀雄らが鉄系超電導体を発見し、「超電導は銅酸化物だけのものではない」という新しい物質群を切り開いたことは広く知られています。

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これらの物質は、量子力学が巨視的なスケールで顔を出す稀な舞台でもあります。多数の電子がそろって一つの量子状態のように振る舞う点で、量子のふるまいと知覚を論じた量子もつれと意識をめぐる議論とも遠く響き合います。

なぜ重要か——送電・核融合・医療

世界の発電量の数パーセントは、送電中の抵抗による熱として失われていると見積もられています。抵抗ゼロの超電導ケーブルが普及すれば、この損失を大幅に減らせる可能性があります。実際に都市部での超電導送電の実証は各国で進んでいます。

強い磁場を作れることも決定的です。超電導コイルはMRIの心臓部であり、リニア中央新幹線の浮上にも使われています。核融合炉でも、高温超電導コイルは小型で強力な磁場閉じ込めを可能にし、実用化の鍵と目されています。

ただし冷却・材料コストは依然として高く、YBCOのようなセラミックは曲げに弱く加工が難しいという課題があります。室温超電導が実現すれば、これらの制約の多くが一気に外れる——だからこそ競争が熱を帯びています。

よくある誤解

第一に「高温」は熱いという意味ではありません。ここでの高温はマイナス180度前後を指し、室温よりはるかに低い温度です。あくまで従来の極低温に比べての相対的な表現です。

第二に、室温超電導はまだ確立していません。近年、常温・常圧での超電導を主張する報告(韓国のLK-99など)が話題になりましたが、独立した追試で再現されず、超電導とは確認されていません。これは確定事実ではなく未検証の主張として扱うべきです。

第三に、高圧下の水素化物では室温に近い超電導の報告がありますが、数十万気圧という極端な圧力が必要で、実用にはほど遠い段階です。一部の報告は撤回されており、慎重な検証が続いています。

どこへ向かうのか

当面の現実は「常圧・室温」ではなく、銅酸化物や鉄系を使った高温超電導の着実な応用拡大です。送電線、核融合用コイル、量子コンピュータの周辺技術など、液体窒素で冷やせる超電導はすでに静かに普及しつつあります。

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同時に、対形成の機構を解明する基礎研究が続いています。なぜ銅酸化物がこれほど高い温度で超電導になるのかを理解できれば、より高温で働く新物質の設計指針が得られるかもしれません。理論的なブレークスルーが次の飛躍を呼ぶ可能性は高いと考えられます。

極限環境に耐える物質という観点では、ほぼ生命活動を止めて極限を生き延びるクマムシのクリプトビオシスのように、自然と人工の双方で「常識の外側」を探る営みが科学を前へ進めます。室温超電導はその象徴的なフロンティアの一つです。

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